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落下傘をお前に [文]

なんか気が向いたので放置してたのに手をつけてみました
短めスコバツ文です。追記ではじまります

rakkasan.jpg

表記し難い間の抜けた声が聞こえ背後を振り向いた時、煉瓦と靴底が強く擦れる音がした。
均衡を失ったその男は、咄嗟に片膝をつく。

俺は、見ろ言わん事無いと呆れて目を細めるも、大きな違和感に僅かに気がついていた。
俺が振り向いたその時から、その心は確かに此処になかった。
前傾のためやや伏せがちの、強張った薄茶色の瞳は揺れる畏怖と輪郭を持たない感覚の脅威をたたえている。
その見た事の無い形相に見てはいけなかったもの、同時にその妙な背徳の中に惹き付けられて止まないものを感じる。
思考は停滞して言葉も見つからない、戸惑ってその場でただ瞬きをした。

バッツは左膝をついて、中空の明後日を凝視したまま硬直している。
気味が悪いまでに真一文字に閉じられた唇は少し震えるようだ。
実際は数センチほど地味に落下しただけなのだが。

ただ、その落下がこの男に何を意味するかを俺は知らない

どれくらい経ったか、すぐさまだったかもしれない、見た事無い光景に時を忘れてしまったから俺にはもうよくわからないが廃墟の朽ちた煉瓦の低い塀、その上を歩くジタンが振り向く。
そして後ろからついてきているはずだったバッツの落下を発見してケラケラと笑った。

「だっせえのー 置いてくぜ」

足取りの軽いジタンは、金色の後ろ髪ならびに同じ輝きの長い尻尾を翻してその先を歩き始めた。
ジタンは笑い飛ばした相手が、言い返すであろういつもの余裕を失ったままだということに気がついていないようだった。バッツは何も言わない。ただただ不規則でぎこちない呼吸を続けている。

「どうした」

落下したときから見開いていた瞳をふと閉じたため、やはり妙だと思い歩み寄る。するとまどろみから覚めるように静かに瞼をあげた。
それでも今バッツを支配している感覚の何かに、敵わなかったらしい。
俺の声に言葉も返さず、またゆっくりと目を瞑ろうとする。
深く、遅い呼吸に大麦色の睫が細かく震え、その奥に見えた薄茶色の瞳が緩く重たげに揺れた。

バッツは今、この世界の何をも見ていないのだ

「バッツ!」
危うげな焦燥にかられて名前を呼ぶ。近くで出すにしては大きい声を上げた俺に呼応して体躯が軽く跳ねた。
その途端瞳に光が宿る。

「え」
咄嗟の一言を口にして、数回瞬く。
傍に駆け寄り屈んだ俺の顔を見上げ、焦点の定まらない目で俺をみとめてる。そして小さく俺の名前を呼んだ。ただそこにいる事を確認するように、スコール、と。

「ああ」
その確認に答えると俺も膝をついて目線を揃える。手を差し出せば数回瞬きをしてから、差し出した俺の腕を捉えた。

「はは、スコールだ。
‥よかったー」
力なくそう言うと俺の腕を伝うようにしてゆっくり立ち上がる。
そして眉根を潜め、泣いた後の子供のように一度すんと鼻をならし顔をくしゃくしゃにして笑った。

そんな顔をするな

「くっそうジタン俺より軽いんだもんな」
さすがの俺も容積までは真似らんねえわ、そうぼやきながら膝についた乾いた煉瓦のかけらを払う。
バッツは自らの膝を見ていたため表情は見えなかった。だがそうやって、全てを語ってしまう自らの正直な瞳を他の視線から伏せる事で、心をおちつかせていたのだと思う。

今のところ俺が取り返しているいつかの記憶だ、高所恐怖症とは、落下することへの恐怖症と換言できる
、どこかでそう学んだ。今のところバッツが取り返している記憶にも、高所のトラウマはあるとわかっていても原因は解らないと言っていた。あいつをスタンさせたのは、解法の無い呪いのような、思い出せないのだから恐れる事しかできないという落下の脅威だ。それがどんなに恐ろしい物であるかは、俺は知らない。殺意、敵意を持つモンスターならいくらでもなぎ倒し越えてきたろうに、それは形のないものだ、濃霧に食いかかるような事。

バッツはふっと頭をもちあげて自然と目を細めて見ていた俺と視線を合わせた。いつもそうするように、対話していた人物と目が合ったのだから奴はにいと笑う。それでもいつものように上がった口角は、いつもよりもぎこちない。

「次そんな顔をしたら置いていく」

俺の言葉を聞いて、小さく「へへ」と呟いた。一瞬だけ逸らした目は笑っていない。常に余裕で、なんだって器用なのに、お前の感情はいつだってあらわで隠す事ができない、というよりは誰にだって隠すつもりはないのだろう。俺にだってお前の、今も揺れが静まらないままの波長はわかっている、つもりだ。

それ対して俺は自分でも嫌気がさすくらい感情においては不器用だ。本音を表にださずにせき止めてばかりの俺の心を、なんの気無しに、はたまたわざわざその手で掬って引き上げてくれるお前は、今隠そうとした気持ちを俺に見せてはくれないのか。
今考えた事も言ってしまえばよかったのだ俺は。ならばせめて、かち合ったままの視線を逸らしたくなかった。俺が目を逸らさなかったら伝わるのか、俺の目はそんなに物を語る事ができるか、なにも確証はないそれでも。
お前は何を考えている、ほらはやくジタンに追いつこうとぜとでも言おうとしているのか。自分自身が輪郭の無い脅威にぶつかって危うかった事も無かったことにして、お前が苦しんでいる事に気がつくことができた俺もここに置いていくのか。

「…次そんな顔をしたら置いていく。」
「それで、俺がお前の故障を治す方法を俺が持ってくるまでせいぜい休むんだ」

眉を上げて大きく開かれた瞳が光を返した。
驚いているのか、じっと俺を見つめてから俺の言葉の、歪な単語の群れにも真意を掴んでのことかその表情は綻んだ。いつものような明朗な笑顔、それとはまた別の大輪の花が揺れる様な笑みをたたえ言う

「ありがとな」

前方でジタンの声がする、バッツはその方向に朗らかな声を投げて応えた。両手で俺の右手を包んで軽く握って、今度はいつものようににいっと笑い短いマントを翻してその先へ駆け出していった。
追い風を受けて加速する後ろ姿を見て、なにやら喧しく騒ぎだした二人に歩みを進めた




_




「‥隠れ鬼、そうだ俺」
日が暮れていく、風が三人の伸びた影を掠め渡っていく中、バッツが小さな声で呟く

「思い出したのか」

「遊んでて、屋根の上に隠れてたら忘れられてさ、で落ちかけたんだった」

「…」
遠くを見つめる瞳、日没の最後の閃光を照り返した額を軽く指で引っかいて、軽いため息をついた。その様子を傍でじっと探る様に見ていたジタンは、過去の記憶の話と聞いてかそっと目を細める。ふらりと尻尾を揺らめかせ、その先の無用な詮索もしなかった。日も暮れた上に薄く、遠くまで広がった雲が幾重にも重なりはじめ、辺りの色彩は薄れ始めた。取り返した記憶をどうするか、俺も、おそらく、悔しいが年齢不相応に大人びた精神をもっているジタンも、自分だったらどうするのか考えざるをえなかった。

と、そこで急にバッツが立ち止まり
「それだけのことだけど、やっぱダメだな!ダメなもんはダメだ!」
そう高らかに宣言する。俺は閉口しジタンは吹き出した。

「そうだぜお前は地面を旅すれば良いんだもん」
「だよなあー極力なあー」
どうしようもないと額を抑えているとすぐ傍をジタンが駆け抜けていった。それを追ったバッツが俺と並び、足をとめた。軽く顔を覗き込むようにして、芯の通った視線を向ける。俺の目線がかち合うとはっきりした声で、いつもの調子で言った。

「理由思い出せたんだぜ、スコールのおかげ。」
「でも万一またああなったら、俺の名前を呼んでくれよ、それで俺は助かるから」

と、言い終えるなり真顔になった。その間自らの言葉を反芻したのか一拍置いて、二十歳ともあろうこの年上の男は頬を染め走り出した。前方からジタンのからかいの笑い声、俺はその滑稽な後ろ姿にため息を一つ。
「問題ない」
その願いを聞き入れよう。俺にはそれができる。
お前を思う奴らの気持ちも知らないで勝手に落ちていくならば
俺が落下点に到達して受け止めるまでだ、なぜなら
借りは何に代えても返さなくてはならないのだ、俺はお前に孤独から救われたのだから。








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獅子が悶々としてくれたので昔の事ちょっと思い出して ちょっとは事態も前向きに変わるかもということでした  クラ/ムボンのコントラストとコトリ/ンゴのclassroomをききつつでした、 おそまつ!!
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