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200記事記念文/恰好の的 [AYASHIGE_文]

200記事まできました‥!ありがとうございます。
好き勝手ばっかりやってるところですがこれからも
どうぞよろしくおねがいしますです。えへ。

今年、wiiの新周辺機器作品に主演した彼について
色々考えてて思うままに書いてみようということにしました。
形式はテキストです。
長い戦いでした(笑)

リンク→ → → マルス←→アイク
ららまにゅのリンク像はなんか歪んでるので注意を

よろしかったら下のリンク(孤高の勇者)からどうぞ
(かきはじめ 08/07/14 : 完遂 08/12/28)

kakkou.jpg
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俺は今までに様々な武器を扱って来た。

弓矢に剣に爆薬、必要とされる時が来れば
状況に合わせて持ち変え続け、今の俺が扱える武器の種類は実に多様だ。
しかし武器にしろ、何だってすぐには使いこなせない、
何事にもコツがある。使いこなせるようになるには時と努力を要する‥。
要領を得る、コツを得る。それはきっと俺にできることだ。

だから時を経ても、なせる努力をしつくしても
得られないものがあるということ、
そんなこと俺には理解できない。


恰好の的

新しく手に入れた武器はボウガン、
弓矢より威力が高いことは知っていたが
なかなか納得のいくものを入手する機会が無かった。
新しく武器が扱えるようになるということは
俺にとって実に喜ばしい事だ。

窓辺から差し込む月明かりに自分の新たな武器をかざして、
繊細に施された金の装飾が返す月光、
それも満月のあふれるような光の輝きに目を細める。
それなりに快適な城の個室に
少し機嫌の良い俺一人分の気配。
遠くに木々のおおらかなざわめきを聞く。

俺は窓の傍の椅子からさっと立ち上がる、
これを早く使いこなしたい、練習をしたいと思ったのだ。
そういえばこの城には射撃場があると聞いたなと思いだす。
葡萄酒の色をした重い扉の金のノブに手をかけ、廊下へ出る。
蝶番が細く甲高く鳴いて、深い森のような廊下の暗闇に響く。
目線だけで見回すと、個室が続く長い廊下は
夜も更けて冷たい空気がただゆるやかにたゆたうだけで人影はない。

小さなカンテラに火を灯し、
独り、階段を下る。
移動中は幸運にも誰にも遭遇しなくて済み、
すぐに城の外へ出る事ができた。今の俺は
呼び止められて声が聞こえていても立ち止まれそうにない。
とにかく試したいという心が自分よりずっと先を走っているようで
俺はその轍をかろうじて歩いて辿っているのだ。

気候も移ろい、雨も続いたために
茂り始めた城の周辺の草木の鮮やかな緑も
夜も更けた今では黒で塗りつぶされた
無機質なシルエットでしかない。
俺はその中をひたすら歩いていった。

鬱蒼とした闇の塊に踏み込んでいく事には慣れている、
‥ずっとそうしてきたのだから言うまでもない事だが。
それにここには強い敵意の気配がない。
俺は古い城の近辺をひたすら探しまわった。
そしてしばらく歩いた先に、湿った木材としての木肌の匂いを感じ
少しいびつな影の群れを見た。手元の小さな光を中空にかざすと
深い闇の中にその多くは朽ちてしまっている木製の射的の列が浮かぶ。
俺は城の裏庭の傍に、探していた簡単な射撃場を見つけた。

少し足を速める、その方向を見つめながらも
背負ったボウガン一式の包みの結び目を指で探る。
高ぶる気持ちと比例して速くなる足取りに
カンテラの金具はカタカタと小さい音をたてる。
内部の灯火は大きく揺らいだ。

_ _ _

射撃場は荒廃していたが、使えない事もなかった。
まず存在していたと思われる天井を支えていた木の支柱が
数本しかのこっておらず屋根は皆無、壁も風化し崩れている。
足場ははがれた漆喰や壁の残骸でとても不安定だった。

しかし俺一人が練習するのには全く問題がなさそうだ。
分解したボウガンを素早く組み立て、
各部分の手入れが行き届いていることを確認してから
数枚並んだ的の、一番崩落の進んでいないものに照準を合わせる。
俺は、この精密な動作が問われる緊張感が好きだ。

浅く呼吸、トリガーに指を慎重に添える。
息を詰める、鼓動のわずかな振動を沈めるために。
目眩を覚えるくらい意識を集中させる、
じっと見つめる先にある的は動かない、

次の瞬間貫ける。

今、


と、心に決めた瞬間に
空から地面に吹き付けるようにして
ゴウと音をたてて風が吹いた。咄嗟に
ボウガンを傍に置き、上からの突風になぎ倒されないように屈む、
俺を取り囲むすべての闇がひれ伏す、それでも風のざわめきが止まない、
巻き上がる粉塵もかまわずに空に目を向ける。

雲一つない夜空に満月が浮かんでいた。

風が俺の目にかかる前髪を乱していく、
流れる金の髪ひとすじひとすじが月光に透かされ、乱反射する。
闇の中央に君臨する満月を讃えるかのように。

見せつけられた俺は戦慄していた。
金色に輝く荘厳の中に
俺は挑戦的なものを感じたのだ。

俺は先ほど、確実に射抜ける的に対して引き金を引こうとしていた。
その感覚をもう一度思い出す。

「貫けない的」
俺は満月から目が離せないまま、無意識にボウガンを手に取る。

そこでとある声を聞いた。


「届くかなあ」

反射的に振り向きそうになったが、
眼だけでその声の場所を追う。
背後、しかもはるか頭上といっても過言ではない、
そして聞き覚えのある声。…しかし
実際に俺が驚いているとは思われたくない。
俺は一瞬の内に、少し怯んだ事を隠しながらそう考えていた。

それから自分より高い位置から投げかけられた言葉の意味を反芻する、
さてどういう事だろうか。

わざと振り向かないことにしよう、
流れた沈黙を破り、答える。

「俺は射抜くつもりだ」

いつからそこにいたのか気がつかなかった。
何をどこまで見ていたんだろうか。
しかし声の色を聞く限りでは
つい先ほどからここに居りました、と
物語っている。直感でそう感じていた。

そうして彼は同じようなトーンで
「そっか」と一言だけ返事をする。

ボウガンをそっと地に置き、俺はようやく振り向く。
この空間の闇に対して光は、俺の足下のカンテラの炎だけだった、
それでも闇に慣れ始めた俺の眼には人影を認める事ができた。

城の二階、裏庭に面した個室の窓が開け放され、
褪せた緋色のカーテンが波打っている。
その部屋は月光の降り注ぐこの裏庭よりも暗い。
冷たい城の一室に籠った暗闇、それを一身に纏った人間が一人。

夜の闇に髪の青が深みを増した、俺と同じ年頃の青年、
マルスがこちらを見下ろしている。

視線はかち合ったまま、お互い何も言わないでいた。
しばらくして、彼はちらりと目配せをした。
その視線の先は俺の背後、そして上空。黄金色の満月。

俺はあれを射抜くつもりでいるのだろうととっての質問だったのか。
…それはさぞかし奇妙に思っただろう。
確かに俺は、一瞬ではあるがその通り血迷った事を考えたのだが。

振り向いた時からずっと、
俺を見透かすようなまるい瞳をこちらに向けている。
しばらく見合っていたが、先ほどと同じ声色で続けて言う。

「届くだけじゃあだめなのかい?」

「だめだ。」

俺がなぜかむきにになって言い返したものだから
可笑しかったのか、くすくすと笑った。
「君って完璧主義者なんだね」

華奢な肩が揺れて、わずかな月光が彼の冠に反射してきらめく。
そして笑みを残したまま、まだ練習するんでしょう、と言う。

俺のちょっとした気の迷いを読まれていた事が
まだ腑に落ちないし、きまりが悪かったが、
その後再開した練習の間、
射撃の的に神経を集中している時や
話しかけられたくないような場面には決して
声をかけてこなかった。ただこちらを見ていた。
邪魔をするわけでもないから特に追い払う事も無いと考え、
俺は練習を続けた。

そのうちにどうしたことか、俺は少し集中に疲れたのか、
準備をしている合間に、俺から彼に話かけるようになる。
初めは他愛も無い会話だったが、どんな些細な事も
マルスは真剣に話を聞いて、感じとっているのがわかった。
彼はこんな神経質な俺でも自然と話を初めてしまうような、
いわゆる聞き上手であるのだと思う。

そして彼の青い瞳が深い憂いを帯びていたことに、
俺は気がついていた。
彼も何か、独りでいる時の深い寂しさを
もちあわせているような気がしたのだ。

しかし彼自身についての話は決してしない。
そのような話題からうまくそらしていく。
慣れた手口でうまく受け流す。
俺にはそれが奇妙に感じられたが話を強いる訳にはいかない。
俺だって詮索される事は好きじゃないから
されたくないことはしない、これは人として当然のことだが。

それから
次の夜も俺はボウガンを背負って裏の射撃場まで通った。
二階から見学するマルスがいない事の方が少なかった。
いつも同じように、ターゲットにボウガンの命中する音が
鈍く響き渡り、一名からなんとか声量を抑えた歓声があがり、
他愛も無い話をする。それを繰り返す。

そして朝がくる前に別れ、俺は自室に戻る。
そんな日が当然のようにすぎてゆく。

_

連なってそびえる山を縁取っていた朝日が
高い空に手を伸ばしはじめていたある早朝、
俺は自室に帰る途中だった。薄い雲が広がり、
朝の月までもゆっくりと溶かしてゆくのを見上げながら歩いていた。
朝露に濡れた草花が風にそよぐ中をゆく自分の、
一歩一歩を踏みしめる音を聞いている。
そして思う。

毎晩の射撃の練習の成果があって実力がついてきたこと、
雨が吹きつける夜は自室で各種自前の道具のメンテナンスをしていたが
ふと、どの状況でも対応できなくてはならないのではと気がつき
雨でも強風でも射撃場に向かうようになったこと、
そしてそのことに気がついた俺に
悪天候の日もそこにいたらしいマルスが半ば呆れつつ感心していたこと、
独りだった夜が二人になって、自然と秘密になってしまった時間を共有していること、
先日卿から聞いた、数年前にも剣を交えた事もあった彼が、
かの亡国の王子であったこと、
深い闇の中の青い瞳が俺を俯瞰し、見つめている、
それを俺は的に集中しながら背中で感じていたこと。

記憶を辿る。どの夜も俺は鮮明に思い出せる。
俺は巡る夜を待ち遠しく思っているのだ。
自問自答をする、何故か?腕を上げるため、
それだけか?

その時、
大きく翻る緋色のカーテンが眼の端に映った。

帰路の早足を止めて、立ち止まる。
そこは誰かが開け放して閉め忘れただけの窓辺だった。
‥カーテンと窓の構造は、城内で統一されている。
そして俺は気がついた。
俺は、夜の裏庭ではないその窓にも
あの面影を探しているのだ。

おおらかな朝日が数えきれないほどの光の帯を
地平の彼方へと伸ばしていく。
どこか遠くで鳥の羽ばたく音、小川の清水の戯れる音、
その間に俺は呼吸をしていた、
そして確かな胸の高鳴りを聞いた。

感覚が研ぎすまされすべて新しくなったように思える、
数十分前の世界を愛おしく思う自分がここにいる。
ただただ的にボウガンを構え続ける俺を見守り、矢を射った後の
俺の尖った神経をなだめるような口調で語りかける。
他愛も無い談笑。俺はいつも独りでいたからか、
そんな会話すらすとんと心に落ちる。
マルスはどうだろうか、
俺の持っている孤独の記憶とはきっとまた違うものだろう、

しかし俺はあの城の裏庭の、部屋の闇にくるまっていた彼に
重く凝り固まったような、それでいて
とらえどころのない寂しさを覚えていた。
あれは確かに孤独が降り積もった寂しさだった。


彼が特別自分に何をしてくれたかは俺にはわからない、
ただ、時間を共有し、同じ空間にいる事、
わずかな会話だけでも心地よかったのだ。
この感情の詳しいことはわからない、
ただ惹かれている。

今わかることはこれだけだ。
その時俺はそれでいいと考えた。
移りゆく感情を説明し尽くすことはできない、
新しく生まれた感情を意識しはじめたそのすぐ後に
心で整理をすることができるものなら、誰も苦しまない。

俺はまだわからない、それでいい
そう言い訳をつけることでしか混乱し始めた思案を
押さえ込む事ができなかった。
鼓動は収まらないどころか高鳴るばかりだ。
柄にも無く、心の中で大いに取り乱している自分が情けなくて、
とにかく俺は城内の人々が活動を始める前に
足早に自室へもどることにした。

たどった帰路は覚えていない。
ふと意識をしてまばたきをしたらそこは自室であった、
そして間もなく落ち着きのある朝の冷えた空気が
遠のいていた眠気を気づかせる。ピンと整えられた柔らかな
生成りのシーツに横たわった次の瞬間、瞼は勝手に落ち、
あとは血が騒ぎながら巡る音がするだけだった。
うるさくてたまらない、なのに睡魔が意識を。
もう全てに理屈を付ける事として考えることが愚かしい。
俺はまだ気がついてないとしても、それでいいのだ。
今は もう、それだけで なにも。

そうしてその朝の意識を手放した。


その朝でなくてもいい、
いつでもよかったかもしれない、
少し考えれば気がつけた事だったろうか、
あの裏庭の部屋は全室昼夜問わず
誰も使用していないということに。
そして彼がそこへ通い続けた真意があるということに。

理由を知らない俺を残して時間だけが過ぎていく。



_ _ _

雨が蒸せ返るような季節の湿度に加勢する、
大きな鼠色の雲から気だるくぶら下がるようなもやが
この城周辺一帯、見渡す限り広がっている。
雨音のノイズが絶える間がない。

今日は一日中同じ空模様だった。
おかげでクローゼットの中まで湿気が忍び込んだようだ。
先日洗濯してしまっておいた緑の勇者の服を手に取ると、
窓の外に向いていた視線を思わず手元に引き寄せるほど
じっとりと重たかった。どうにも不快だ。
少し眉根を寄せるも、明日着れるように部屋に掛けておくことにする。
止まない雨音を聞いて、一つため息をつく。

俺は今日、食事以外の用事で城内を歩いていない。
しばらく出撃する予定も入らないだろう。先日ピットや
キャプテン・オリマーと共に雲海を偵察したためだ。
これだけ人数がそろっているから、個人が各々の力を適所で発揮できる。
俺は団体で動く事はあまり好きではない。しかし
このような良い点があるのだ感じた事は初めてだった。

そうだ、この雨の中遠征をしている部隊もあるはずなのだ、
編成はどうなってるだろうか。
ふっと考えがよぎる、‥彼はその隊に参加しているだろうか。
部屋でなにもしないでいるうちにあたりは暗くなっていった。

このところ俺は夜明けまで一人で射撃場でボウガンの練習をしている。
あの窓は閉じられている、あの緋色のカーテンは翻らない。
最後に闇の中の彼の青を見上げたのはいつだったか。

約束のない、ずっと続く筈の無い時間だとは知っていた。
それでも俺はどこかで、しかも強く望んで
この先も続いていく場所なのだと期待していた。
感情に気がついた途端にあの空間は離れていってしまった。
それでも俺は夜な夜なあの場所へ足先を向ける、
いまでも、ボウガンの練習をしているときにも、
意識はあの高い窓に置き去りのままだというのに。

愚かしい。
雨のノイズにあふれた部屋で呟く。
自分に呆れても部屋で一人で自分をあざ笑っても
おそらく、いや確実に、今夜もあの場所へ向かうのだ。
俺にはどうしようも無い。
腰掛けていたベットに背中から倒れて、そのまま眼を閉じた。

瞼の裏の闇色を眺めて、思う。
近頃気がついた事、そう、
そういえば彼は人間なのだったな。

彼はいつも遠く離れた場所にいる。
もちろん、内容のある会話こそしないものの
城内ですれ違う事もある。
彼は実体を持っていることをもちろんわかっている。
ただ、日の上っているうちに、
あの空間はどこにも存在しない。それを誰も知ることもない。
語る事もない、もちろん俺たちも。
だから彼は俺に対して隔離されて存在する、
そうして俺は、さも当然の事のように
遠い彼に触れることはできないと感じていたのだ。

触れる。
きっと彼は触れた箇所から
薄い氷のように砕けて散らばってしまう
あの青色のすべてに触れたら
彼はどうなってしまうのだろう、
‥あの雪のような肌に触れたら 俺は

そのあと俺は
闇の中から這い出てきた黒い狼が
夜空を跳び駆け巡る夢を見た。
俺はそれが何者なのか知っている。

_ _ _


雨はあがった、重い湿気だけ残されて
今は夜の静けさが、この世界に緞帳を降ろしたように覆っている。
雲も大方は風にとばされたようだった、辺りはほのかに明るい。

少し身体が重く気怠かったが、
やはり今夜もここへ、射撃場へ来た。
ボウガン一式の包みを解いて今宵の月はどこだと見回す、
これだけ明るいのだ。
きっと今夜は。

城の背後に満月が浮かんでいた。
それはかすかに屋根をかすめて、
ここにいる俺には欠けて見える。
満月が静かに俺を見下ろす。
あんなに高く上る満月、あふれるような月光に
あの夜を思い出さずにはいられなかった。

ボウガンの矢先を空へ向ける、
狙いを定めるためにあの的を見つめる、
貫けない的を想う。満月を射ろう等という行動を、
この祈りにも似た衝動を馬鹿げたことだとは今は思わない。
心を奪われてしまったのだ。
どうにもならない、
こうやって思いを限りなくつのらせるだけだ
俺にはもうどうにも。

その時
その瞬間だけ意識の外にあった風景が物音を立てた。
体勢を変えず、続くその音に即座に意識を集中する。
風でもない、草木でもない。
その音はどこからするのか見なくともわかっていた、
昼夜をかけて思いをはせたあの部屋の、
あの窓辺から!

どうしようもなく胸が高鳴る、
言いようもない高揚が俺を突き動かそうとする。
それをすべて押さえ込んで、慎重に目線だけをすべらせ、
あの窓がそっと動くのを見た。
その方向はだいたい同じ、あの満月の的に照準を合わせたまま
固唾を飲んだ、その刹那。

蝶番の衝突した音が夜空に高く反響するほど、窓が強く開け放される。
影の塊が窓の淵を荒々しく蹴り、跳ねる、
その衝撃で窓の木枠の一角が脆く散った。
背負った月の光に縁取られた大きな黒い影は
一瞬身体を縮め、弾けるように夜空に大きく跳躍した。

それは俺の上に影を落とし、
ためらいもなく腰の剣を振り抜いた
溢れんばかりの月光が大剣に反射して、きらめく。

大気が渦を巻いて空に巻き上がる、
上空からの威圧を感じて即座に身構えた俺は正しかった。
大剣の柄を軸に、残像の弧を描いた銀の刃が
俺の目の前の風を切裂いた、轟音を立てて俺の足下に振り下ろされる。
間一髪で身を翻した俺は一度膝をつき、一歩後ろへ飛び退いた。

神剣ラグネルが長雨でぬかるんだ地面に深く突き刺さる。
すばやく体勢を立て直したアイクの、鷹の如き眼光が俺を射る。
額当ての、余った長い裾が宙を舞い降り
先に着陸し身構えた身体によりそうように、ふわりと落ちる。
「手加減はしない」

揺らぐ髪は青い焔のようだ、
俺は目の前に突然現れた人物を、焦点の合わない両目で呆然と見ていた
これは生半可な剣の構えではないと全身で感じながら。
彼が、何故この場所にと思う前に。

今向けられた神剣ラグネルの切先を
鋭い月光が縁取る、
その金色を目にして、直感が先に動き出した。

彼の剣は、怒りではなく使命を纏っている。
彼の剣は、守るために。

滞っていた思考がようやく再開したときに、
かち合ったままだった目線を俺が少し揺らがせてしまう。
まず一つ気がついた。おそらく、
俺が月にかざした矢先はまたもや勘違いを生んだのだろう

そう、俺は月に矢先を向けていたのだ、
だが彼は、俺が何か他のものを狙っていると考えた。
おそらく今宵の月の手前にあったあの窓、
あの窓から現れた彼はどうして刃をかざす。
そうして敵と見なした俺に剣を振りかざすこの青年、
彼こそ。

あの憂いの瞳を、闇を。
巡らせた考えが、ひとつの答えを引き出す
そして突然押し寄せた事実に目眩がした。
いまはもう戻らない開かれたあの窓辺で
マルスがずっとずっと待っていたのは。

「‥ああ。」
 なんてことだ。
無意識のうちにあげた声は唇をひどく震わせ、吐息で滲んだ

それでも、俺が今の今まで勝手に重ねた考えに気がついた俺は
何故か非常に冷静になっていた。
すべて解った事で高揚していた。
俺はいまどうしたいか、
解っている。
向けられた切先に宿る月光の金色、
初めてあの窓辺で見たあの冠の金色ととてもよく似ていて。

俺はボウガンを手放して背負った剣の柄を掴み
左腕を振り下ろし引き抜く、暗闇を裂き、残像が駆けた。

「手合わせ願う」
アイクは表情を微塵も変えず、俺に向けた剣先を引き、改めて構える。
次の瞬間二人の間を風が駆け抜けた。
即座に俺は全ての重心を駆け出す先へ投げ出す。

ああ見つけてしまった。
この理不尽な感情、俺を苛ませる衝動を
撃ち込める恰好の的を。

月下に刃の衝突音が咲き乱れる。
不毛な戦いだと思うだろう、見下ろす満月よ。

俺はどの的も貫くつもりだ。




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_(あんま気分よくない)ep.

「月の光にも引力があるんだって」

目を丸くして何も言わず、呆然と立ち尽くしている彼に言う
「だったら満月の力はとても強いんだろうね」

僕の言葉を聞いて、彼はすこし眉を上げ
口を開きかけたけれど、声は出さなかった。
鈍感な君でも、あの時のことを思い出してくれたのだ。

これだけたくさん部屋があるのに
あの夜、なにかに袖を引かれるようにして
たどり着いたこの部屋の扉を開いた僕は
窓辺の椅子に座って月を見上げている君を偶然見つけた。

さすがの君もすこし驚いて目を丸くしていた
それから少しだけ笑って

「月にも引力があるんだそうだ」
そう言ってくつろいだ様子で窓の月に視線を戻した。

特に深い意味をもってそういったわけではなさそうだったし
それは僕も知っていたけどその時僕はただ、「そうなんだ」と答えた。
それよりも今共に見ている風景について
彼が知っている事を教えてくれたことが嬉しかった、
なにより僕がそこにいてもいいという表明だと思えたから。

だから僕はようやく訪れた再会に喜びつつ戸惑い、
我先にと僕の心におしよせるたくさんの言葉を使わずに、
真っ先にあのときの言葉をお借りした。

「‥かもしれんな」
たった一言だけだったけどもどこか嬉しそうにも聞こえた。
そのとき宙に浮かんでしまいそうな気持ちの僕が聞いたから
そう聞こえたわけじゃないと思う。

またここで会えるかなとおもっていたんだ

「だったら」
「君も引き寄せられたらいいよ」

金色の真円を見上げるにはここが一番だから。
あの夜から毎晩来てただなんて言えないけれど

窓に背を向ける。満月の光に背を照らされてるのがわかる、
僕は両手を後ろにまわして、窓を静かに閉めた。

「ここへきて」

ガラス越しの月は水晶のように輝いている。



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